「琥珀。俺と結婚しよう!!」


「琥珀さん。結婚してください!!」



バタンとドアが開け放たれ、二つの男声が居間に響く。

仄々と談笑していた三人の女性陣は、二人の言葉が脳中に浸透し、硬直。

そんな事を知ってか知らずかズンズンと二人は歩みを進め、琥珀の前で跪く。

四季は黒白の羽織袴に無理なく着流している。

志貴も四季と御揃いのデザインの羽織袴。色は浅と深の蒼。

四季は、スッと一輪の桔梗を差し出す。

遅れて志貴は可愛い向日葵を両手で添えて差し出す。

二人の異様な雰囲気に琥珀はたじろぐ。

「へ? ……え?」

二人は期待の眼差しでジッと琥珀を見つめる。

「あ、あの……。四季様? 志貴さん?」

琥珀は気圧されて一歩後退り。

瞬間、二人は寂寥感を醸し出す。

ビクッと琥珀はそれを感じ取り、足を止める。

「そ、その……。あ、あ…い、あぅ………」

琥珀は思案機能に異常をきたす。

あれこれ知を巡らすが、感情という名の波で荒廃した脳内では結論が粗雑。

もはや一事で一杯の頭は無能の極みで、リセット機能すら故障。

琥珀は人生で初めてパニクッた。

その頃、状況に圧倒され完全に置いてけぼりをくらう二人が復活を果たす。

秋葉はパキンとティカップを握りつぶし、奇声を上げる。

翡翠も秋葉と同時に、普段決して上げない音量で叫ぶ。

「「えぇ――――――――――――!!!!!!」」

だが、二人の突然の甲声すら、三人には届かなかった。



   ◇ 素敵な恋を贈りましょう 【前編】 ◇




            present by. 逸貴






事の発端は、二人で飲み明かしていた月夜の晩。

取り留めの無い、脈略の無い会話を楽しんでいた最中。

不意に切り出した四季の一言。


「なあ、志貴。俺、琥珀の事が好きみたいだ」


志貴は驚いた。

なぜなら、四季はずっと秋葉一筋だと思っていたから。

「は? お前ずっと秋葉を愛してるって言ってたじゃん。何言ってんだ?」

「ああ、そうだな。
 でも、気付いたんだ。あれは単にお前への嫉妬がそう思わせていたんだって」

四季はニコやかに話す。

「………ふ〜ん。じゃあ、秋葉の事はもういい訳?」

「そういう訳じゃないがな。ただ、秋葉の事は妹と認識してしまった」

「シスコンは卒業? なんかえらいアッサリだな?」

志貴は眼を細めて流し見る。

口元は微妙にニヤけている。

「それを言うな、親友。俺は目覚めたんだから」

「あはは。頑張れよ」

「おう!」

勢い良く返事をした四季の顔は、どこか晴れやかだった。


その後秋葉に見つかって、五人で朝まで飲み明かしたのは、また別の話。



§




自室のベットで仰向けになる。

「琥珀さんが好き、か……」

四季の言葉を思い出して、ボソッと呟く。


―――― でも、気付いたんだ


四季は嬉しそうにそう話してた。

アイツは日頃から、好きだ、愛してる、とか躊躇い無く愛情表現をしていた。

   在る時は、――― こりないねぇ

   在る時は、――― また始まった

   在る時は、――― 流石だなぁ

そんな事を考え、所詮他人事と傍観していた。

でも、胸中には毎回変動する感情と不変の感情が、僅かに渦巻いていた。

俺は、愚鈍だの優柔不断だの朴念仁だの、事の性格に関しては酷い言われ様だ。

そんな俺がいうのもなんだが、四季は誠実だと思う。

遠野家に住む三人は、間違いなく世間の基準を満たす美人美女の部類に入る。

その彼女らに囲まれても、たった一人の女性だけをずっと見詰め続けていた。

事情があり心移りをしたようにも見えるが、基本的に四季は大人である。


―――― お前への嫉妬がそう思わせていたんだ


そういやズキリと来たな、そのセリフ。

きっと俺も心の何処かで、アイツの強さに嫉妬していたのだから。

「好きな、人、ねぇ……」

思わず呟く。

う〜ん、と考え込んでしまう。

考え込む事事態がおかしい行為なのは、この際無視。

一つに絞れない難儀な頭の、普段絶対使わない部分を思いっきり苛めた。



§





夕食の時間になり、一時的に部屋を離れた。

五人でテーブルを囲む夕食を終え、食後の茶話会に出席。

四季は何処と無くぎこちない様。

風呂を済ませ、自室への廊下をペタペタ歩く。

自室へ辿り着き、バフンとベットへダイブする。

思わず洩れた、搾り出す一言。

「……嘘、だろ?」



§





次の日、俺は志貴に呼び出された。

いつもの事なので、フンフンと鼻歌を歌いながら待ち合わせの離れに入る。

離れの玄関には既に志貴の靴。

「おっ、珍しい。アイツが先に来るなんてな…」

あくまでのほほんと構える。

襖を開けると、志貴は縁側に座って外を眺めていた。

ん? と微妙な雰囲気の違いを察知するも、杞憂だろうと即座に結論を下す。

ドカリと志貴の隣に胡坐で腰掛ける。

何か喋ろうかと思った矢先、志貴からの思いがけない一言。


「御免、四季。俺も、………琥珀さんが一番なんだ」


バッと首を回す。

志貴は真剣そのものの面持ちでジッと林を見詰めていた。

グッと拳を握るが、それ以上は無かった。

直ぐに分かった。

殴られるのを、嫌われるのを覚悟で俺に伝えた。

今までの志貴なら、たとえどんな事があっても、まず口には出さない。

コイツは自分の中に何でも溜め込んで、表には決して本心を見せない。

そんな奴が初めて心を開いた。

しかも昨日胸中を告白した俺に報告するなんて、どう取れば良い?

それをどうして殴る事が出来ようか。

どうして嫌う事が出来ようか。


―――― 俺を認めてくれた


俺はそれに気付いた時、琥珀への気持ちなんかどうでも良くなる位嬉しかった。

やっぱりコイツは俺の親友だ。

今までも、これからもずっと。


「……そうか。それは残念だな、志貴」


諦めた様な声でわざと呟く。

志貴はピクッと体を震わせ、徐々に視線を手元に戻す。

思わず顔が崩れる。

自分でも分かる。

きっと今の俺は、変質者と大差無い位場違いで異色な笑みを浮かべている。


「今まで、――― 親友だと信じてたのにな……」


俺が発するのとほぼ同時に、志貴はドーンと沈み込む。

志貴の肩が少しずつ下がりだし、ピンと張っていた背筋も今や見る影も無く御婆ちゃん。


―――― 重そうなオーラ♪


しょうもない感想を心で述べる。

なんか可哀想になってきたので、弄るのはここら辺で辞とする。


「今日からは、―――― 同志……だな?」


へ? の擬音が至上に似合う呆けた志貴の顔。

「だからよ。
 協力し合う親友じゃなくて、競争し合う恋敵って事。
 頭弱いな〜、志貴?」

志貴は信じられないといった風に、口をパクパクしている。

「おっ? 新しい呼吸法か? それ、苦しくない?」

くだらないジョークを放ち、志貴の真似で口をパクパクさせる。

志貴はそのままで、俺は疲れたので普通に戻る。

「志貴、お前……いつからエラ呼吸になったんだ?」

「違ぁ―――――― う!!!!!」

志貴は間髪居れず、怒声で叫ぶ。

流石に予想外の事だったので、耳を塞ぐのが数瞬遅れた。

例によって、キィ―――ンと聴覚神経が麻痺してる。

「ア゛―――。耳痛ぇ〜」

ポンポンと耳を軽く叩きながら、回復を待つ。

細目で志貴を見ると、どうやら肩で息をしているようだ。

次第に回復の兆しを実感し、最初に聞こえるは、ゼェ―、ゼェ―と乱れた呼吸音。

「何だぁ、志貴? 今度は全身呼吸法か? 器用な奴だな〜」

ニャハハと茶化す。

「――― 四季、お前ワザとやってるな……」

「当たり前じゃんよ、そんな事。
 マジでこんな事言うほど、俺は馬鹿じゃねぇよ。
 あまり俺を見縊らんで欲しいものだね?」

志貴は目を大きく見開いた後、

「はぁ〜………」

大きく溜息をついた。

「なんだよ、その溜息はよ〜。失礼じゃん? 俺様に対して」

ニヤニヤ笑いながら、心にも無い事を言う。

「なぁ、四季?」

急に真剣な顔つきなる。

俺は受け流すつもりで、ニヤニヤ笑みを崩さない。

「ん?」

「お前、――― ホントに良い男だな…」

「はぁ?」

思わず頭上に ? が灯る。

「いや、やっぱりお前には敵わないって思っただけさ。
 もし、………もしもだぞ?
 俺が女だったとしてお前に出会っていたなら、―――― 俺は、絶対四季に惚れるよ」

慈愛に満ちた優しい笑顔で志貴は語る。

「―――― っ!」

不覚にも顔が熱くなる。


―――― 同性だぞ? 志貴は…


ブンブン顔を振って平常心を引っ張ってくる。

志貴からは依然として篭れ出る暖かい雰囲気。

その光景にピクンと感じるモノがあった。

心に感じた事をそのまま声に出して表現する。

今までそれは、志貴に無くて俺に有った唯一の権限。

それも、今となっては過去の名声に成り下がる。

別に嫌じゃないけどな。

「そうか? そりゃ有り難さん。
 まっ、男のお前に言われても気持ち悪いだけだがな……」

ふふふ、と志貴は笑う。

「まぁ、なんだ。
 お前がそう言うのは何というか、こそばゆいな。
 それにな、志貴?」

志貴は、ん? と顔で表現する。


「俺もさ、……女だったら、―――― お前の虜になるよ、きっと」


さっきのお返しに、俺も出来る範囲で幸せそうな顔をする。


その後、志貴が耳まで真っ赤になって、しばらく使い物にならなくなったのは、また別のお話。



§





「秋葉。その服、似合ってるぞ。
 つくづく秋葉が選ぶ服は、センスがいい。なにより華に成るよ」


四季は、居間で秋葉と紅茶を共にして会話を楽しんでいる際に、何の前触れも無く告げる。

秋葉が突然の言葉に咽かける。

「あっ、御免秋葉。急に変な事を言ってさ。
 なんか秋葉を見てたら、自然にそう感じたというか……」

四季は慌てて秋葉を宥める。

秋葉はカップをテーブルに置き、胸元と押さえ口元を隠して呼吸を整える。

「大丈夫か? 秋葉。つい、場違いな事喋ってさ。
 今度から自重するよ……」

四季は心配そうな顔で秋葉を見詰めながら、言葉の最後を小さく濁す。

数秒後…

秋葉はやっと持ち直す。

「せっかく秋葉が煎れてくれた紅茶が台無――――」

「四季兄さん? さっきのは本当?」

秋葉は四季の言葉を遮って疑問を投げ掛ける。



   いいか四季?

   まず、秋葉はお前に対して苦手意識を持っている

   だが、決して嫌いというわけじゃない

   やり方次第では好転する筈だ

   これからが本題

   秋葉は確かに頑固で融通が利かなくて、しかも恐怖政治を行なってくる

   何故だと思う?

   一つは、弱く見られるのが大嫌いだから

   が、矛盾してるが女の子として見て貰いたがっている

   さらにいくぞ?

   もう一つ、秋葉は他人が自分より上に居るのを恐れる

   そこで、弱さを見せた者を気に入る傾向にある

   止めは、褒めちぎりと、さり気無い意思表示

   これでいけ!



四季は、心の中で親指を立てる。

秋葉は少し嬉しそうな表情だ。


「もちろん。秋葉はもともとが美人だから、映えるよ。
 うん。秋葉自身の服を着こなすセンスが秀でてるから、なんというか……麗美だよ」


四季は昨夜の計画に色を添えて、つらつらと歯の浮くセリフを浴びせる。

「――― 有り難う。四季兄さん……」

秋葉は小さく呟いた後、クイッと紅茶を飲み干す。

あまり慣れない事をしたせいか、また咽た。

四季は秋葉を丁寧に扱う。

秋葉はいつもと様子の違う四季に戸惑いながらも、何処か心地よい時間を過した。


秋葉の四季への印象が大きく好転したのは、今更言うまでも無い。



§





「お〜い、翡翠。何か手伝う事無い?」


応接間の調度品の整理をしていた翡翠に話しかける。

「お言葉ですが、志貴様。
 申し訳有りませんが、以後そのような事は仰らないで下さい」

翡翠は作業を一時的に止め、ピシッと姿勢を正して志貴を見据える。

その、如何なる時でも主人に対する礼儀を忘れない心得は流石、と感嘆。

無論、志貴にはそれ位の結果は充分予想範囲内。

対翡翠攻略の手法は、昨夜の作戦会議で最重要項目と特記し、綿密に分析し、対応を模索した。

故にバッチリ。

思わず志貴はニヤリを笑う。


まず、パターン1…


「なら自分で探すよ。翡翠の為になるような事を。
 それが翡翠の為になるか分からないけど、俺は翡翠に感謝してるって事をちゃんと教えてやりたいからね」

ニコッと笑って翡翠を見詰める。



   いいか志貴?

   翡翠は並大抵の事じゃ譲らない

   だから、下手に出るのは得策とは言えない

   が、翡翠は心で語られると、意外と押しに弱いところがある

   翡翠攻略の鍵は、ずばり、誠意の弁論

   これだ! いいな?



翡翠の反応は上々。

ピンクに頬を染め、俯いてしまった。

志貴は心の中でガッツポーズ。


―――― 一発KO? よし、この調子


「う〜ん、そうだなぁ。んじゃとりあえず、埃被ってる重そうな奴を床に降ろすか……?」

志貴は翡翠の方へ歩み寄る。

「翡翠? ちょっと御免ね?」

翡翠の肩に乗っていた埃を払う。

「あっ………」

ピクンッと翡翠は反応する。

「あっ……御免、翡翠。つい気になっちゃって。いきなり翡翠の嫌がる事をしちゃったね……」

志貴はパッと手を離す。

「…………いえ、気になさらないで下さい」

翡翠は消えそうな声で呟く。


「やっぱり翡翠みたいな可愛い女の子は、いつも綺麗でいて欲しいからね」


志貴は満面の笑みで翡翠に語る。

翡翠はボッと音が出そうなほど真っ赤になり、さらに俯く。

志貴は、まだまだ翡翠攻略の為の、多くの口説き文句染みたセリフをストックしていた。

ただ、志貴自身と一緒に考えていた四季が恋愛童貞な為、乙女心を理解しておらず、結果として口説き文句染み
ている事に対して自覚が無い。

それは、ある意味始末が悪い点でもある。

自覚が無いとはいえ、愛の告白モドキと普段なかなか見せない無邪気な笑顔。

当然、もとより志貴に好意を寄せていた翡翠にとっては完全に不意打ちとなり、没落が早かったのも頷ける話。



――――――――――― つくづく神様は食えない御方である



その後、翡翠が喜色満面で志貴の申し出を受けいれ、幸せな一日を過したのは、自明の理な終幕だった。



§





話は、二人が友情を深めた日の晩に戻る。

深夜、翡翠の見回りをパスし、四季が志貴の部屋に忍び込む。

といっても、部屋自体は隣同士なのでそう難しい事ではない。

四季が来るのを見計らって、志貴はベットから腰を起こす。

「で、話って何だ? 四季」

志貴は開口一番に尋ねる。

「おう。いきなり本題だな。
 えーと、な。確認しとくぞ。
 俺達は晴れて同じ女に恋をした、………云わば同志みたいな関係だよな?」

「そうなるな」

志貴は頷きながらも、何が言いたいんだ? と顔で投げ掛ける。

「それでだ。俺は考えた。というか、思った。
 俺達って、………馬鹿だなってさ」

四季は笑って言う。

「は? 四季? 何言ってんだ?」

志貴は一層怪訝な表情で四季を見詰める。

「まぁ、そう焦んなって。
 話を続けるぞ?
 一人の女を二人の男、しかも知り合い同士が惚れるなんて、なんてゆうかロマンティックじゃん?」

四季は楽しそうに話を進める。

志貴はあえて何も言わず、四季が何を言いたいか見定める事にした。

「―――― でな?
 どっちが選ばれても恨みっこ無しの関係をお前と築きたいな、って馬鹿な俺は考えた訳よ」

志貴は無言で頷く。

「そこで、俺は足りない頭で考えた。
 そもそもどうやって琥珀を落とすか、って事を……」

「おい、四季?」

志貴は思わず口を挟む。

「待て待て、志貴。質問は後だ。まだ話は先がある」

「………………」

よし、と小さく四季は首を振り、また語りだす。

「結果は散々だった。てゆーか、思いつかなかった」

ガクンと項垂れる。

「その後、琥珀がひょっこり目の前を通ってさ。ちょっと話し込んでみた訳よ」

「………ふ〜ん」

志貴は腕を組んで空返事をする。

志貴は、今頃になって琥珀をものにする難しさに頭を悩ませていた。

「志貴。ちゃんと聞いてるか?」

四季は胡乱な眼差しを向ける。

志貴は慌てて取り繕う。

「あっ、御免。ちょっと物思いに耽ってた」

四季は、ふぅっと鼻から息を吐き、志貴を小突く。

「いいか志貴。一回しか言わないからよく聞けよ?
 琥珀はな? 自分だけいい思いをしようなんて思っていない。
 常に誰かの事を案じていて、事ある度に自分を犠牲にする、聖母のような女なんだ」

「ああ。それは知っている」

志貴は直ぐに四季の発言に同意する。

四季は志貴が理解してくれた事に、笑む。

「で、俺は結論した。
 琥珀を『落とす』なんて事考えちゃいけない」

「……………ああ」

志貴からの重々しい返事。

「そんな気を落とすなよ、志貴。
 別にお前が考えているほど難しい事じゃないよ。
 ――――― 俺が言いたいのは………」

ニコニコしながら四季は告げる。

「単に、――― 琥珀に選んで貰えばいんだよ。どちらかを、さ」

志貴は驚く。

「は? 四季? な、に、……言ってんの?」

志貴は動揺。

四季は、ふふふと笑み、続ける。

「―――― 難しく考えるな。
 こういう時はな、他人の立場に立って物事を考えると良いんだよ」

志貴は難しい顔。

「これ自体もな。琥珀に例え話をしてアドバイスしてもらった、受け売りなんだけどな」

ははは、と四季は笑う。

「琥珀は良い女だ。本当にそう思う。自分には勿体無い事も分かってる」

「ああ。そうだな。俺もつくづく思い知らされるよ」

四季の言葉に、志貴も従う。

「だから、琥珀に選んで貰う相応の男に成ろう、と俺は決心したのさ」

四季はジッと志貴を見据える。

それに対して志貴は目を逸らす事無く答える。

「……そうだな。いいぜ、成ろう、琥珀さんに相応しい男に…」

四季はニヤリと笑い、つられて志貴も笑う。


「「……っぶ、くくく…、あはは、ははははははははははははははは!!!!!」」


二人でお互いの肩を叩き合い、笑い合う。


数分後…


「兄さん!! ………ん?」

「志貴様!! ……四季様!?」

「志貴さん!! ――― あら、四季様」


ドアを開けるなり、三人の美女が叫ぶ。

四季と志貴は視線だけ移して、ヒクヒクまだ笑い合う。

二人の光景に毒気を抜かれた三人は、呆れた顔で眺める。

「何やってるんですか、兄さん達は。消灯就寝時間とっくに過ぎてますよ?
 また、ペナルティーを増やして欲しいんですか?」

秋葉は腕を組んでやや顔を傾けて告げる。

「ああーいいかもな〜。そ―――――」

四季が喋っているところを、志貴が無理やり口を押さえて黙らせる。

「だぁー秋葉。コイツの言った事は、無し!! 戯言だと思って聞き流してくれ。
 これ以上の収入源の減衰は、洒落になら無いんだよ。頼む」

志貴は空いてる片手で頼み込む。

四季はモガモガ言っている。

「では、兄さん。
 それ相応の処置を此方で用意させて頂きますが、それでも宜しい、という事ですか?」

秋葉はイヤミな流し目を向ける。

「え? あ、あう、うん。それでいい、よ……」

ガクッと力無く頭を垂れる。

「分かりました。では、愉しみにしていて下さい。
 それと、四季兄さん? 早く自室に戻ってください。兄さんが迷惑してるじゃないですか。
 ―――― いくわよ。琥珀。翡翠」

秋葉は自室へを戻る。

琥珀は秋葉の後ろに続き、翡翠がドアに手を掛ける。

「では、志貴様、四季様。よい夢を…」


パタンッ…


志貴にとって、地獄の門が閉じられた瞬間であった。

「はぁ〜………」

志貴は大きく息を吐く。

「災難だったな。………志貴よ…」

「ああ。そうだな。全くだ、馬鹿野郎……」

志貴は愚痴る。

四季は嬉々した表情で志貴の頭を撫でる。

「……おい、四季。気持ち悪いから止めろ」

不満を申し立てる。

「そうだ、志貴。
 ――― さっき言い忘れてた事、あった」

四季はポンッとわざとらしく手を打ち付ける。

「………どんな事?」

志貴は頭を垂れたまま聞き返す。

「さっき、琥珀に相応しい男に成る、って決めただろ?」

志貴はピクッと反応し、頭を上げて見据える。

「俺はさ。こう結論したんだよ、志貴。
 さっきさ、物事を考え直すには他人の立場に置き換われって言っただろ?」

「――― ああ」

即座に返答。

「俺は俺なりに、琥珀になったつもりで考えたんよ。
 そしたら、意外や意外。――― 結構答えは簡単だった…」

四季は笑む。

志貴は黙って続きを待つ。

「周りも一緒に優しく接してさ、心を広く穏やかに持てるようになる。
 それから、突然の最後に一押し。
 琥珀への真剣な想いを伝えてさ、どちらかを選んでもらおうって」

「ああ、そうだな」

志貴も合意する。

「もし、選ばれなかった方もよ。
 これなら納得できるんじゃないか? お互い同じ条件なんだし。
 なによりさ。
 自分が努力した結果が報われなくても、それ以上に自分は成長したなって実感できるのが、嬉しいじゃん?」

「おう、四季。分かった」

志貴は手を出す。

四季は嬉しそうに両手で握る。

「俺は本気だぞ? 今の俺なら遠野の三人共虜出来る気がするぞ?」

「はは。そりゃこっちのセリフだ、四季。手加減無しだ、覚悟しろよ」

言って、四季と志貴は力一杯握り締めあった。


ただ、お互いあまりに思いっきり握り締め過ぎて手が鬱血したのは、まぁ仕方の無い話。


そして、

その後三時間ほど情報を交換し合い、二人で作戦を考えた。


決められた事は、


   一日交代で、琥珀と親睦を深める


   琥珀の日じゃない方は、残り二人と親睦を深める


   毎晩、権利のある方がない方の部屋に忍び込み、結果を報告


   報告後、次の日の計画を簡単に立てる


の、四項目。

ちなみに、虚偽の発言を許さない、という決まり事を設けないのは、お互いを信頼している証。

ジャンケンの結果、最初の琥珀との接触権利は四季に与えられた。

次の日から、二人の男の精神練磨を兼ねた、初恋生活が始まった。






    to be next the second story...




 ∬ 後書き ∬

シリアスに多少疲れ、ある理由から『琥珀さんを救済する』を主テーマに、ほのぼの短編を書きたくなって書きました。
最初と最後を考えただけという3分構想で、重要な中身は勢いに任せて書き進め、いつの間にか3編に変貌(笑)
しかも、あれっ? と気づいた時には、何故か琥珀モノじゃなくて、志貴四季モノに(爆)
書きながらラストまでの筋道は立てましたが、まだまだ不測の事態に陥る予感……。
結果オーライになれば、万事問題無しなんですけどね。
息抜きを兼ねているので情景描写は疎かですが、悪しからず。


――― 参考資料 ―――

『桔梗』の花言葉…………変わらぬ愛、変わらぬ心、優しい温かさ、感謝
『向日葵』の花言葉………あなただけをみつめています、光輝、熱愛


イメージソングは、B'z『恋心』。
では、新参者の逸貴が御贈りしました。

Thank you for reading here !!


 逸貴さんより頂きました、「素敵な恋を贈りましょう」前編です。
 四季と志貴が笑い合う日常。
 歯車がずれなければありえたかもしれない二人の掛け合い
が、胸にじ〜んと来ますね。それを取り巻く秋葉たちも可愛ら
しい。こういうほのぼのとした話、大好きです(っ´▽`)っ

 果たして琥珀はどちらを選ぶのか。男達の企みは上手く行く
のか。目が離せません。
 逸貴さんありがとうございました。続きも楽しみにしています。