■ カレン ■


山口 遼





 肉の槌は、互いの一個性を砕かむとするかの如く、更に激しく深く入った。それは恰も、肉体が結び合う為には、肉そのものを越えねばならず、肉を伴った儘、肉を貫き、肉の彼方へと赴かねばならぬかのようであった。
――平野啓一郎『日蝕』

一、

 たとえば晴天から驟雨が降り注ぐように、夏に粉雪が舞うように、人間は清らかだと信じてしまうように、そんな理不尽が起こったとしても、動じるような己ではなかった。
 予想外の事態さえ愉しむ度量をもって王を名乗り、想定外の困難をも軽々と粉砕する勇武をもって英雄を謳う。だから英雄王たるギルガメッシュを動揺させるに足る事柄など、世界にいくつも存在しない。
 不都合などなかった。言峰が去り、後釜にひとりの女が居座った。事態はそもそもそれだけのことで、問題はどこにもない。所詮は仮初に過ぎぬ宴の夢に、それ以上の結末を求める方がどうかしている。不便を感じることはあったとしても、気分を害される理由は見当たらぬ。
 ただひとつ、女の人格を除いては。
 理解できなかった。その女のあり方が、心底わからなかった。初見で化物と悟った。会話をして毀れているのだと早合点し、やがて狂っているのだと結論し、最後にこの女は馬鹿なのだと納得した。そうだ、馬鹿なのだろう。生まれつきの欠陥ではない。そこはたしかに言峰とは違う。どちらが致命傷かといえば、それは間違いなく言峰だ。しかし、どちらが終わってしまっているかと問われれば、答えは女だ。真実救われぬ、救えぬ愚物は、女のほうだ。
 女がそれさえを理解していたことが余計に苛立ちを煽り、不愉快を加速させた。女は望んでもいない異端を、しかし望まれるままに受け入れていた。不遇をかこつことさえせず、ただ己を哀れむことですべてを台無しにしていた。なんという愚かな代償行為だろう。あまつさえ、女は改善を求めなかった。より良い結末を望まなかった。現状が不幸だと気づいているくせに、幸福という輝きを渇望しなかった。
 ゆえに、許せなかった。
 実に自然な結論だ。

 欲しいものは手に入れた。手に入らぬものなどなかった。それが王とそれ以外の違いだと思っていた。
 王は望めばすべてを手にいれ、王以外の人間には、望んだところで叶わぬ願いがある。王とそれに従う者の違いは、欲求を実現できるか否かの違いなのだと信じていた。いや、信じてさえいなかった。それはもはや、それと認識することなく受け入れていた、ただのあるべき真実でしかなかった。
 だが、女は違った。女には望みがなかった。呼吸するために生きているような、世界のすべてに絶望した円環。閉じた生涯は在ることばかりがいつまでも尽きず、しかし続きはどこにもない。そうして、螺旋はめぐり続ける。
 なにかを求めようとする機能が失われた完全無欠の欠陥品。なるほど、無心の祈りとはよく言ったものだ。女はあるものをあるものとして受け入れる。大げさに言ってしまえば虚無に近い。こうしよう、こうなればいい。語弊を恐れずに表現すれば、女にはそういう人間としての願いがない。だから当然、絶望がない。
 ――そう。
 揺れない振り子に価値がないように。
 女はすでに、人間ではなかった。

***

「あ――はぁッ……!」
 組み敷いた女が苦しげな吐息を漏らすたび、背筋が快感に跳ね上がる。打ち付ける腰の勢いが増すほどに、女は際限もなく乱れていく。気遣いも遠慮も無用だろう。なにしろ、仰向けに横たわった女の足を開いてあてがったときには、そこはすでに滴るほどに濡れていたのだ。
 準備が整っているならば前置きは不要だった。女の身ならばともかく、こちらはそもそも前戯など欲してはいないのだから。
「ダメ……あっ――ん……!」
「ふん……こらえ性のない女だ」
 ギルガメッシュは唇を枉げ、首筋に浮かんだ女の汗を舐め取った。鍛え上げた己の胸でささやかな丘陵を押しつぶす。もはや慣れ切ったこの小柄は、しかし何度犯したところで飽きが来ない。
「そら、もっと開け」
「え、――ぁあ!」
 両足を腕で持ち上げ、さらに深くまで突き入れる。潤った水音を立てて、女が悲鳴を上げる。膝裏に腕を差し込んで、強く強く腰を打ち付ける。女の足に力がこもり、膝の曲がった状態のまま筋肉が収縮する。
「やぁっ……深……い――ッ!」
 胸が圧迫されて呼吸が苦しいのか、声もなく口を開閉させている。足の自由を奪われ、浅ましく酸素をむさぼるその姿はまるで――。
「は――聖女などと笑わせる。貴様など、これでは蛙となにほども変わるまい」
「いや――だ、だめ!」
「囀るな。蛙ならば蛙らしく、せいぜい醜く泣き喚け」
「あ、あ、――やっ!」
「そら、いいぞ。もっと声を上げてみせろ」
「ああっ! ん、はっ、あ、あぁ!」
 打ち付ける先端に硬い感触がある。ここが女の限界なのだろう。ギルガメッシュは少し笑った。女は十分に高ぶっている。もはやあと一押しで歓喜に全身が波打つだろう。
 だから、身を引いた。
「え――あ?」
 女から取り出したものは、てらてらと光っていた。いまだ開放されない欲望を持て余しつつ、女の顔を覗きこんだ。
「終わり――ですか?」
 それは疑問だった。懇願でも要請でもなく、純然たる質問だった。限界まで高めた熱を己の裡に溜め込んでなお、女はすべてを受け入れようとしている。こんなささいな、罪深き思いつきでさえ。
「不服か?」
「いえ」
 声に震えはなかった。つまらないと思う。これはひどくつまらない結末だ。
 それでは、あまりにも意味がなさ過ぎる。
 誰にも聞こえない舌打ちをした。その憤りが、その嫌悪が、何に由来しているかは考えない。予告もないままにふたたび女の中に押し入ると、かみ殺した嗚咽が洩れた。
「くっ」
 女の中は熱い。爛れそうな肉の壷に取り込まれそうになるのを、歯を食いしばって耐えた。女をふたたび高めていく。淫らなほどに反応する体は、まさしく玩具のようだ。
「あ――やっ」
 女が酸素を求めて口を開く。そこに唾液をたらして、さらにさらに奥へ奥へと。
 一度大きく腰を引き、最奥めがけて思い切り肉を突き上げた。
「あ、あ、あ、あ、あぁぁぁあ――っ!」
「――くっ」
「や、も、ダメ! ギルガ……メッシュ……、わ、私、も、もう……!」
「――っ、は、勝手に終わるな無礼者が。我はまだ渇いておる」
 女の体がひときわ跳ねたが、頓着せずに運動を続ける。喉元までこみ上げた欲望に気づかぬ振りをし、さらに貪欲に女を追い詰めていく。
「あ、や、も、あ、ぁあああ!」
「意想外だな……呆れるほど節度のない体よ。これほど食らって……っ、まだ我を求めようとしておるわ! そう急くな、じきに、存分にくれてやる!」
「ち、違――あ、ん、んん……っ!」
「吼える前に口を閉じろ。涎を垂らしてむさぼるとは、卑賤にも程があろう」
「や、ごめ、ごめんな――さい……!」
 必死に口元に手をやろうとする女の手首を捕まえて、自らの唇をもって唾液をすすった。
「……ふんっ……何度食らっても良い具合だな、カレン」
「や――な、まえ、――んっ」
「――っく」
 名を呼ぶと締まりが良くなる。耳障りな音を立てて騒ぐベッドの上で、少女のような淫婦が己の名前に欲情している。ギルガメッシュは鼻を鳴らした。名を呼ばれる栄光を雑種に与える理由など、それくらいが妥当なところだ。
「どうした、もう限界か、カレン」
「や、だめ、ギルガメ――ッシュ!」
 淫らな、粘りのある水音を立てて股間と股間が触れあっている。こするように、打つように、撫でるように、ふたつが結合を続けている。
「もう、わた、私、げ、んかい……!」
 口でなんと取り繕うと、爛れた肉の壷は休むことなくうごめいている。なお奥に、より深く、さらに強くと求めている。
「や……強――すぎる!」
「はっ、ほざくな――!」
「う……あぁあ!」
「――っ、この様、貴様にはこの程度では生温い」


二、

 願わぬ、というあり方がわからなかった。女にはあらゆる望みがない。ただ命を消耗するように生きているだけだ。
 そんな姿は不愉快だ。
 その腐りきった命でさえ、この世にある限りは己のものだ。ギルガメッシュという英雄王は、世界すべてを所有する絶対だ。だから女は女のものではなく、ギルガメッシュのものだった。
 所有されるものに過ぎぬ分際が出すぎた真似をする不遜を、赦してやる理由はない。

***

 陽の落ちた空は、またたく間に漆を撒いたような闇に覆われた。
 教会は街の外れでひっそりと静寂を死に続けている。象嵌された壁が、窓から差し込む月光を、ちろりと弾いた。
「下がりなさい駄犬。私に触れることは赦しません」
 修道服に身を包んだ女は、気負う素振りも怯える素振りを見せぬまま、金の目を細めた。それははっきりと、さげすみのまなざし。
 いいぞとギルガメッシュは舌を湿した。肌があわ立つ。ああ――貴様は本当に、気に入らぬ女だ。
 教会にはにおいと音がある。祈る者を体現する女から流れる清澄なそれを、本能に灯した野蛮で蹂躙する。その快感はまさしく極上の刺激で、夢想するだけで吐きそうになる。
 女は微動だにしない。呼吸さえ忘れたように、こちらを見下げ果てている。いいぞ。悪くない。その傲岸は誇るに値する。なにしろ、ここまで神経を逆立てする無言など、これまで一度も見たことがない。
「聞こえなかったのかしら。私は下がれと言ったのよ」
 祈るべき神はここにいる。血流の半分以上に神を宿す身に向かってさえ、少女は平気に命令を下した。近寄るなと。
 ならばいったい、何に祈りを捧げていたというのだろう。神に救いを求めたのではないなら、薄幸の女は、なにを求めたのだろう。
 いったいなんのために――女は今日まで生きてきた?
「下らぬことを言うな。次はその首が飛ぶと思え」
 まとわり付く赤布を退けた。天の牛でさえとらえた鎖を相手取るに、たかだか聖骸布程度では役者が足りぬ。マグダラもキリストも、所詮ははるかに下った時代の遺物に過ぎぬ。神を宿すこの身に、子がたてつくなど片腹痛い。
「我は誰の指図も受けぬ。気の向くままに喰らい、引きちぎるまでよ。女――無礼の代価、よもや覚悟をしておらぬとは言わせぬぞ」
「そう――あなたでさえも、渇くのね」
 一歩を踏んだとき、女が両手を下げて首を振った。
「好きなだけ喰らいなさい。毒婦の血肉でも、渇きと餓えは癒せましょう。滋養に腹が爛れ潤いに喉が灼けつこうとも、せいぜい満足に吼えることね英雄王」
 女は笑った。野暮で飾り気のない修道服の上で、白髪がやけに暗い。
 虚言に惑うことはない。距離を縮め、わずかに膨らんだ胸部に手を伸ばした。服の上からでもそうとわかる、極上の肉質。
「――ん」
 嬌声ではない。単に驚愕に声が洩れただけだろう。かまわずに二度三度と指先に力をこめる。成熟していないが、爛熟している。指先を呑みこむように、肉が擦り寄ってくる。知っている体だ。男を貪欲に求める、淫靡で豊饒な肉体だ。
「つっ」
 力を込めすぎたのか、女が眉を寄せた。構うことはない。掌で包むように感触を愉しむ。手に吸い付いてくる感覚が心地良い。小柄な肉体が、精一杯欲望に答えようと蠢いている。細すぎる肩を震わせる女は、抵抗する素振りさえ見せずに、こちらを上目で見つめてくる。わずかに下がった目じり。かすかに朱を孕んだ顔色。そのすべてが誘っているとしか思えない。ああ、まったくこいつは、生来の淫女だ。
 吐息に甘みが混じるころになって、ようやく女は身を引いた。
「せっかちな人ですね。求めれば与えると言っているでしょう」
「勘違いするでないわ。与えられるのではない。我は奪うのだ。貴様の許可など求めぬ。貴様には許可を与える権利すらない。これよりは、我の声を聞いたならば疾く体を開け」
「そうですか。――では、そうしましょう」
 虚空に響いた言葉を証明するように、衣擦れの音がした。
「ふん」
 星月の光を集める祭壇の前で、女は惜しげもなく白い肌を晒した。なんという背徳。光を弾く肌は奇妙なほどに白く、手足は触れれば折れそうほどに細い。だが、その肌のなんと瑞々しいことか。その肉付きの、なんと蠱惑的なことか。足元に落ちた修道服が、闇に溶けている。修道女? 馬鹿を言うな。これは最高の肉だ。最高の、淫だ。
「聖女で娼婦とは魅せる趣向だが――我を求めるにはいささか芸が足りんな」
 手を伸ばす。肉に触れる。
 さあ、乱れろ。

「そこに手をつけ」
「――え?」
 女は心底理解できぬといったまなざしを向けた。ギルガメッシュは眉を寄せる。存外、物分りの悪い女らしい。
「聞こえたであろう。そこに手をついてこちらに臀部を突き出せと言ったのだ」
「そこって――この祭壇のことではないでしょうね」
「他にあるならばそこでも良いが、我の目にはそれしか映っておらぬ」
 素肌を晒した女の神々しいまでの白さは、闇夜、灯りを落とした教会の中にあってさえ輝いていた。
「なんという冒涜を。――神前で行為に及ぼうというのですか、あなたは!」
「なんの問題がある」
「え」
「神など信ずるにも足りぬ。あんな愚物どもに頼って何がある。そも――我とて半分は神だ、存分に敬って見せろ、カレン(シスター)
「――っ。承服できません。部屋に戻ります」
「覚えの悪い女だ。先ほども言ったであろう。――我はただ、奪うだけだと」
 距離を詰め、女の手首をひねり上げる。
「っつ……!」
「乾いたものを潤すのであろう? ならば場所などに頓着するな。そら、さっさとせぬか」

「……っつ、はぁ……ッ!」
 女は言われるままに祭壇に手をつき、腰をこちらに突き出している。両足を開かせたせいで、本来隠されていてしかるべき箇所までがあわらになっている。後ろから眺めているだけでそうとわかるほど、女は赤面していた。
「いまさら羞恥を覚えるなど、見当違いにも程があるわ」
 思わず低い笑いが洩れる。それが女の忍耐に打撃を与えるとわかっているので、わざと聞こえるようにしてやった。
「――なんだ、この様は」
 秘所に突き入れた指は憐れなくらいに濡れた。年齢や容貌に似合わぬほど熟したそこは、早く腹を満たしたくて仕方がないのだと訴えている。
「たいした聖女だ。立派なのは口だけではないということか」
「――っ、黙りなさい駄犬」
「ふん」
 右手を振り上げ、力任せに臀部を打った。甲高い音があたりに響き、女の口から苦悶の声が溢れた。
「言葉に気をつけろ。次はこの程度では済まさぬぞ」
「この――ぅあっ!」
 何かを言おうとした女をさえぎって、差し込んだ指を動かした。面白いほどに敏感な女は、ささいな動きにさえ反応し、声を上げる。
「もう十分か」
「――あ」
 断りなく突き入れた。女が何事か罵声を張り上げたが、声はもはや言語をなしていない。
「そう悦ぶな。本領はこれからであろう」
 苦悶と悦楽の入り混じった声を聞きながら、腰を突き出した。女の体をいたぶり、もてあそび、蹂躙する。相手のことなど考えない。欲しいままに喰らい続ける。
「や。ダメ――これ……おっき……い!」
 偶像はないとはいえ、祭壇の前だ。女にとってはこの上もない侮辱だろう。それさえ甘んじて受け入れているのだから、女はますます終わっている。
「は、良い。良いぞ良いぞ良いぞ!」
 銀の髪を振り乱してあえぐ女の顎を捉えて、後ろから突き上げた。女の中は思ったとおり上等だった。垂れるほどに濡れた肉が、間断なくうごめいている。
「あ、ふぁ、ああ!」
 顎から口の中へ指を滑らせる。女の舌が絡みつき、指先から股間に快感が走る。
 この分では口も相当に達者なのだろうと、ギルガメッシュは頬の笑みを深くした。後日、ゆっくりと愉しまねばならない。
「ふぁ、は……ふぇあぁ!」
 舌を指先で挟み、揺らし引っ張りもてあそぶ。腰を打ち付けるたびに女の痩せた体が震える。犯しているのだという実感がわくたび、ぞくぞくと背筋が歓喜の声を叫び上げる。
「いいぞ、声を上げろ淫売め!」
 指を離して腰を掴む。強く奥に打ちつけながら、舌で唇を湿す。快感が突き上げてくる。女が擦り寄ってくる。肉と肉がぶつかりあい、つま先のしびれるような刺激が押し寄せてくる。波打つ背筋に舌を落とし、重力に引かれる胸を指で弾く。突起を転がせば律儀に声をあげ、強く摘まめば締め付ける。都合のいい体だ。こんなにも男に媚びた体は今まで数人も見たことがない。
 動きを止め、女の背中を撫で回す。絹のような感触、水面に勝る弾力。素肌同士を合わせれば、さぞ気分が良いだろう。それもまた後日の愉悦にとっておくことにする。
 肩で息をしていた女がこちらを振り返り、潤んだ瞳を寄こした。だらしなく開いた口は唾液でぬめり、汗ばんだ顔には細い髪が絡みついている。
「ふん、すっかり出来上がってるな女。――この肉、玩具にするには最良だ」
「……そう、それは光栄ですが、変態倒錯趣味とは知らなかったわ」
「ほざくな」
「ああ!」
 腰を打ち付ければ、女は眉を寄せて嬌声を上げる。圧倒的に不利な被虐の状況にあっても減らぬ口ならば、確かに少しは価値を認めてやってもいい。
 そう。こちらの加虐を煽るという意味においては。
「これほど具合の良い女は久しぶりだ。誇れ。貴様はすでに十分に淫蕩だ」
「貴方の乏しい女性経験で判断されるのは心外ですが、褒め言葉として受け取っておきま――あぁ!」
 つながった箇所の上部にある突起を弾いて、笑った。
「よく跳ねる女だ。そんなにこれが好きか」
「や――この、やめ……んぁ!」
 つまみ、こね回し、強く弾く。女は淫らに反応し、甘ったるい声を上げる。
「神前ではなかったのか。は、ほとほと度し難い淫乱だな」
「……奴隷風情が過ぎた口ね。不能者にしてやろうかしら」
「いちいち虚勢を張るな見苦しい。そろそろ苛立ってきたわ」
「女の軽口も聞き逃せないなんて、案外狭量なのね英雄お……ぅぁあ!」
 頭にきたことは確かだが、それ以上に女の態度が新鮮だった。会話のうちに萎えつつあったものを無理やりに動かして、女を責め上げる。
「玩具風情が利いた口を叩くな。貴様は声を上げて突かれていれば良いわ」
「――この……へんた……ぁあ、ぅぁぁあ!」
 もはや女の雑言は聞こえない。夜の教会には、ただ淫らなあえぎだけがこだまする。


三、

「終わりですか」
「不服か」
「いいえ」

 ――振り返れば。
 何度、その不毛な会話を交わしたことか。


四、

 女との戯れは、しばし続いた。
 時には朝から昼間から、部屋で祭壇であるいは庭先で、ギルガメッシュは気の向くままに女を求め、女はそのことごとくに答えた。
 悪態をつき、時には卑猥な罵声を浴びせながらも、女は無茶な要求によく応えた。命じれば口で奉仕し、求めれば野外でも足を開いた。
 それが女の常態なのか、あるいは相手を選んだ上での嬌態だったのかはギルガメッシュにはわからないし、また興味もない。知ったところでつまらぬ結論に嘆息するのが関の山だろう。どちらに転んでも満足には至るまい。
 目的は別にあった。そして、それは達成されなかった。
 行為の最中、どれほど中途半端にそれを切り上げようと、どれほど限界まで高ぶらせようと、女はそれ以上は求めなかった。振り返った痴の瞳には、これで終わるのかという問いはあっても、終わってくれるなという懇願はなかった。
 性欲という人間の持ちうるもっとも凶悪な衝動をもってさえ、女のゆがみは矯正されなかった。だから結論はひとつだ。
 ギルガメッシュは少し笑う。なにをいまさら。そんなこと、はじめからわかっていたことだろう。
 女はもう、人間ではない。
 求めないという障害さえも踏破して完成を見た無心の祈りは、英雄王の戯れごときでは突き崩せなかった。所詮、遊戯の結末はそれに尽きる。千年紀を幾度越えたかわからぬ信仰の果てで、人類はかくも無様な娼婦をなした。
 そもそもの思いつきが下賤であったことは否めない。それでも、あの毀れきった赫きに言いたいことは腐るほどある。正しき道に進みたくば、生まれた直後からやり直せ。欲望を手に入れろ。己のために生きてみろ。決して口にはしなかったものの、肉のつながりをもって訴え続けたひとつの箴言でさえ、女は一笑に付すだろう。あの憎らしい悪女の笑みをもって。
「案外浅はかなのね、英雄王」
 とでも。
 ああ、思い出すほどに腹が立つ。
 赦せなかった。ただ気に食わなかった。
 望むままに喰らう己が矮小なのかもしれぬと、そんな虚妄を一瞬でも抱かせた女のあり方が赦せなかった。
 泣き、ねだり、甘え、欲望する。生まれたばかりの愚者が食事を求めるように、用便の始末を訴えるように。それさえできない女は、ならばたしかに赤子に劣る。
 ああ、だからこれは児戯に等しい。それはその通りだ。乞えば答える修道女。願えばかなえる願望機。そこに意思はなく、一人歩きした人格は厄介な毒素をはらんでいよいよもって性質が悪い。ねじの緩んだ狂騒劇に介入する導き手は、願うことを知らぬ欠落品。どちらも子供に劣る馬鹿者だ。
 そんな雑種の舞台に、この身で上がってやる義理はない。子供は子供らしく、遊んでいればそれで良い。回り廻る願望機。その上で、せいぜい下らぬ喜劇を演じ続けろ。丸く終わる呆けた茶番が、雑種程度には似合いだろう。その球体の児戯を、片足で蹴って眺めてくれる。
 この果てぬ夢の終焉を、そうだ、ならば球蹴りでもして過ごしていよう。
 そうすれば少しは――この胸の苦味も晴れるだろう。

(了)

 あとがき

 頼まれもしないのに鼻息荒く「書くぞ書くぞ」と気負ったくせに最終日に至るまで書き上げることができずこの様の山口です。死ねばいいんだ……。みんな……死ねば……。
 桜イズムでこんにちは。人生で最初で最後のエロ文章でした。エロくならなかったことは百も千も承知です。すいません。
 それでも読んでくださった方になんらかの楽しみを与えることができればいいなあと書き手のエゴを全開にしつつ、祭りの成功を祈願(記念?)して、失礼します。カレンさん万歳。




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