■ 大きい乳も小さい乳も感じる乳はいいおっぱい ■
相模 陸
──そもそもの問題は、乳なのである。
乳。乳房。バスト。おっぱい。淡いふくらみ。たわわな果実。微乳・爆乳・貧乳・巨乳。成人女性の持つ胸部における脂肪の詰まったなだらかな隆起部分を指す語彙は、人類の半数を占める男性が有史以来その部位に寄せてきた関心の高さを示すかのように数多く存在する。
現代においては、嘗ての低い社会的地位から解放された女性がより活動的に動けるよう、揺れ易く且つその度に根元に力がかかって痛み(そしてそれは乳の大きさに正比例する)を与えるデリケートな膨らみを保護するだけでなく、ボリュームの少ない女性には寄せて上げて詰め込んで当社比三割り増しに修正してくれたりもする驚異的な性能を持つ下着に包まれた神秘の領域である。
──つまるところ、問題は乳なのである。
形而上また形而下において演繹法また帰納法を用いて唯心論的また唯物論的に十重二十重の考察を重ねてみても畢竟辿りつく結論はそこなのである。
疑うならば手近に居る男を捕まえて小一時間問い詰めてみるといい。ふっくらと柔らかに弧を描く肉は鷲掴みにしても掌に余り、また顔を埋めればその谷間に挟まれて溺死しそうなふくよかな乳房に魅せられぬヘテロの男性が果たして統計上いかほど存在するものだろうか。ふくらみかけの蕾のような微乳が良いという不心得な輩も或いは居るのかも知れないが、さりとて眼前に目の冷めるような巨乳美女がたゆんたゆんと乳を揺らして闊歩していったならば、その主義とて容易に膝を屈するに相違ない。
伝え聞くところによれば、とあるアンダーグラウンドな密会では、日夜を問わず『( ゚∀゚)o彡゚おっぱい! おっぱい!』などと言った謎の呪文が飛び交っているというではないか。その呪文をひとたび唱えさえすれば、その場のあらゆるいがみ合いが雲散霧消し、誰もの心がひとつになり恍惚とした幸せに満たされるとも言う。第六魔法の具現にもっとも近い現象として、魔術協会の研究対象にもなっていた筈だ。乳の魔力たるや斯くの如し。
かくも女性にとって乳房の大小と言うのは、男性が己のシンボルに感じる以上に重大な関心事でありプライドの拠り所なのである。男性諸氏は想像してみるといい。『大丈夫、小さくたって気にしないよ』という言葉は、それが同情的な眼差しと共に己のシンボルに向かって言い放たれたものだとしたら、死刑宣告に等しい絶望と屈辱に涙したくなる事だろう。乳のサイズとは、それほど女性の自尊心と密接に係わるものなのである。本人に向かって不用意に大小口にしようものなら、極死七夜でその六銭は不要になるくらい重大事
なのである。
──だから要するに、問題は乳なのである。今直面しているこの難問を、如何に解決すべきかと言う事が、衛宮家住人代表として課せられた我々の遠大なる使命なのである───!!
「というわけなのよ! 分かるわね、桜!?」
「すみません、姉さん。まったく分かりません」
前触れもなく衛宮家の桜の自室にやってきて、延々と壊れたように演説をぶった挙げ句、唐突にそう同意を求めてきた姉の姿に、彼女はそう答えることしか出来なかった。
「えっと、さっきの晩ごはん、何か変なものでもありましたっけ……? 今日はそんなに変な食材使ってなかった筈なんですけど」
「へ、変な材料って、あんたいっつも何入れてんのよ!?」
「ふふ、賞味期限が近いものとかそういう意味ですよ。別に蟲とか蟲とか蟲とか入れてませんから安心してください」
あれ、あまり美味しくないんですよね、と不穏な事を呟きつつ、桜はぴとりと凛の額に掌を押し当てた。
「姉さん、熱いです」
「そりゃ当然じゃない。風呂上がりだもの」
「はあ。お風呂でのぼせちゃったんですか」
「違うわよ」
「じゃ、石鹸で滑って湯舟に頭でもぶつけちゃったんですか? 姉さんってば、相変わらずうっかりなんですね」
「だから、違うってば! 何でそうなるのよ! アンタわたしのこと一体どういう目で見てるのよ!?」
があー、と吠える赤いあくま。その様を見守る桜の目が妙に優しいことに気がついたのか、凛はこほんと咳払いをすると、気まずそうに居住まいを正した。
「そんなんじゃなくて。
──実はさっき、お風呂に入ろうとしたらね、バゼットに出くわしたのよ」
「そう言えば、今日からバゼットさんもここに居候することになってたんですよね。姉さん、喧嘩とかしませんでしたか?」
「しないわよ。いくらなんでも、あんな人間凶器と真正面からやり合えるほど人間やめちゃいないわよ、わたしだって」
「姉さんなら結構いい線いくと思うんですけど──いえ、何でもないです。で、バゼットさんがどうかしたんですか?
じろり、と凛に睨まれた桜が慌てて言い直すと、凛は突然酷く真面目な表情を見せた。腕を組み、厳しく眉を寄せて、きつく唇を噛みしめながら言葉を探しているようだ。
一見感情的なようでいて、その根は極めて冷静沈着な観察者である凛が、ここまで深刻な横顔を覗かせるのは只事ではない。バゼット・フラガ・マクレミッツ。昼間に衛宮家の皆を交えて話した時は、友好的で親しげな雰囲気をまとっていたが、その正体はあろうことか魔術協会の代行者なのだ。衛宮家の滞在を安易に許可してしまった事で、何か問題でも発生したのだろうか。しかしそれならば自分よりは、サーヴァントであるセイバーやライダーの力を借りた方が──と桜が思い至ったところで、凛が重々しく口を開いた。
「─────凄かったのよ」
押し殺されたような響きだった。ますますもって不安が募る。風呂場で一触即発の事態にでもなったのだろうか、と桜は恐る恐る凛に尋ねてみる。
「何が凄かったんですか?」
「昼間見た時もただ者では無いと思ってたけど、さっきので確信したわ。わたしやセイバーでは勝ち目が無い。桜かライダーならなんとかなるかも知れないけど……でも、バゼットの武器はアレだけじゃないものね。正直、あそこまでの実力者だとは思っていなかった。
衛宮家の勢力図を塗り替えるほどのダークホースね、彼女は」
「はあ……でもそれは、最初から分かってたことなんじゃないですか?」
「一見しただけじゃ確信は持てなかったのよ。近くで直に目にすると、やっぱり迫力が違うものね。気圧されるなんてもんじゃなかったわ。本当に凄いわよ、バゼットは」
うんうん、と一人納得する凛。だが桜にはやっぱり分からない。
「でも、とりあえずわたしたちに害意は無いんですよね? それに、姉さんやセイバーさんが勝てない相手じゃ、わたしには全然歯が立ちません」
「は? アンタ、何の話をしてるのよ。この家じゃ桜かライダーくらいしかバゼットには太刀打ちできないわよ」
「姉さんこそ、何の話をしてるんですか? ライダーはともかく、わたしは姉さんやセイバーさんみたいに、魔術や剣なんて巧く扱えないんですけど」
「誰もそんなこと言ってないわよ。第一、今バゼットがわたしたちと戦う理由なんか無いでしょ。家を提供してるのは士郎だし、バゼットの身分の後ろ楯はわたしが行ってるのよ? ここでわたしたちを攻撃したところで、共倒れするのが関の山だわ」
「それはそうですけど……じゃあ、姉さんは一体なんのことを言ってたんですか?」
「まったく、ここまで言っても分からないの? そんなの、決まってるじゃない」
そう言うと、凛はぐぐっと桜に顔を近づけて────
「─────乳よ」
──────。
──────────────────。
──────────────────────────────。
「………………はい?」
たっぷり三分も経ってから、ようやく桜が口に出来た言葉はそれだけだった。
乳。CHICHI。乳房。バスト。おっぱい。脳内をありとあらゆる乳語が鮮明なフルカラーの画像付きで駆け巡る。ちち。ちち。ちち。ついでにエコーまで掛かっている。ちち。ちち。ちち。ええいうるさい。
「えっと。乳、ですか?」
「乳よ」
頭をぶんぶんと払ってちちエコーを払いのけた後、聞き間違いかと思って問い返した言葉は、ものの見事にそのまま跳ね返ってきた。これが穂群原一の優等生の口から出るお言葉でしょうか姉さん。妹として涙が止まりません。
「その、姉さん。なんだか、よく分からないんですけど」
「さっきあれほど噛み砕いて説明したのにまだ分からないの? まったく、しょうがない子ね」
『噛み砕いて説明』というのは、扉を蹴り開けて入ってくるなり十分間は息継ぎすることなく仁王立ちのまま滔々と述べ立てた
『第六魔法実現の可能性におけるおっぱいの魔術的考察/文責・遠坂凛』のことを指して言っているのだろう。あれで何かを理解出来る人間が居たらお目にかかりたいものである。が、この姉にそんな事を言い返しても話が進まない気がするので、桜は自分が折れる事にする。実に良く出来た妹である。
「すみません、姉さん。やっぱり分かりません」
「そう? 少し説明をはしょり過ぎたかしらね」
──いや多過ぎますから。あれ以上増やさなくていいですから。
桜の突っ込みを余所に、凛は小さく息を吐いてから、ぴっと人指し指を立てた。
「だからね、さっきお風呂に入ろうとしたら、脱衣所でバゼットに会ったのよ。バゼット、ちょうどお湯から上がったばかりみたいで、まだ着替えてなかったのね。
それで、見てしまったのよ」
一呼吸置いて。
凛は苦悩に満ちたため息と共に、低い呪いの言葉を吐き出した。
「─────凄い乳、だったのよ」
だん、とぶち抜かんばかりに床板を踏みしめる凛。うわあこの人目が本気です。
どう反応して良いか迷っているうちにも、凛の演説はどんどんボルテージを上げていく。
「体のラインが出にくいようなあんなスーツを着てても、あれだけ乳回りが強調されてるから絶対大きいとは思ってたのよね。でもほら、一見しただけじゃその辺分からないじゃない? 最近のパッドは高性能なのも多いし、巧く底上げすれば見た目1、2カップは簡単に誤魔化せるものね。
でも、あそこまで見事な天然物だとは正直思わなかった。わたしやセイバーとじゃサイズが二回りは違うわね。アレは桜やライダー並みの一級品だわ」
「はあ」
パッドどうこうについては突っ込まないでいてあげるのが優しさだろう。ヒートアップしている赤いあくまの矛先がこちらに向いたら手に負えない。
「けど姉さん、バゼットさんの胸が大きい事が、一体何の問題なんです?」
「は!? 大問題に決まってるじゃない、そんなの!
相手はあのたゆんたゆんな特盛り巨乳の持ち主よ。あんなのが同居していたら、どこかの朴念仁だって魔が刺さないとも限らないわ。いえ刺すに決まってるわ。どうせ男なんて乳が大きければそれでいい生き物なのよそうよそうなのよ。そうなったら最後、既成事実を盾に取られて一週間の期限なんてなし崩しに無かった事にされて衛宮家の力関係はここに崩壊して下克上が始まるのよ!」
「うわー。姉さん、歪んでます」
乳が小さいことでよっぽどトラウマを抱え込んでいるのだろうか。彼女が憧れ、信じ続けた少女にも、誰にも理解できない孤独があったとしたら。いつも自信に満ちていて(略)そんな姉が自分と同じ、いつも何かに縛られていた人間だったとしたら。
──そう、それは貧乳という、絶望的な現実に──
「アンタ、なんかまた変なこと考えてない?」
「いえ別に。あの感動的なシーンも、そう考えると台無しだなあとかそんなこと思ってません。
でも姉さん。バゼットさんの巨乳が気になることは理解しましたけど、先輩は大丈夫だと思いますよ? わたしやライダーだって居ますけど、先輩全然手を出してきてくれませんし。わたしの方はいつでも準備万端なのに。くすん」
「ふん。アンタやライダーとバゼットとでは、決定的な差がひとつあるのを忘れてない?」
「何です?」
「決まってるじゃない。初々しさよ」
びしっ、と桜の笑顔が音を立てて凍りつく。それNGワードです遠坂さん。
「あの如何にも男慣れしてません、カタブツです、甘え下手で不器用なんですー、っていう雰囲気が男にはたまらないものなのよ」
「で、でも、それならセイバーさんも同じような雰囲気で──」
「だって、セイバーは貧乳だし」
今この場にセイバーが居たらエクスカリバーでどつき倒されても文句が言えない勢いでばっさりと一刀両断する凛。
「だからこそバゼットは恐ろしいのよ。あの初々しさと巨乳のギャップ。諺にもあるじゃない、『わたし脱いだら凄いんです』って。あれこそ、まさに影の実力者と呼ぶに相応しいわ」
「そんな諺聞いたことありませんけど」
「だーかーら、そんな細かいことはどうでもいいんだってば。アンタだって、バゼットに士郎を取られたら困るでしょ?」
「─────それは」
漸く凛の言いたい事を理解して、桜の表情が変わっていく。心なしか、その瞳が赤く染まっているような──何やら背後にめらめらと黒い炎が見えるのは、気のせいだろうか──
「ごめんなさい姉さん、桜は馬鹿な子でした。ええ、姉さんの危惧も良く分かります。わたしってば、なんでこんな簡単な事に気づかなかったんでしょう。ライバルは一人でも少ない方がいいに決まってますよね?」
「さ、桜?」
「ふふ、大丈夫ですよ姉さん? ちゃんとわたしが一思いに闇に葬ってあげちゃいます。証拠なんて骨の一本も残しませんから、安心してください。巨乳萌え属性キャラはわたし一人いれば十分なんですから」
「桜……恐ろしい子……っ!」
じゃなくてっ、と凛が勢い良くかぶりを振る。いつの間にかすっかり主客転倒してしまったものの、流石にくすくすごーごーまっしぐらな桜を止めなければ倫理的対外的社会的法律的その他諸々まずいと判断したのだろう。少し落ち着きを取り戻した凛は、ふうと肩を落として言葉を続けた。
「バゼットと無駄にやり合ったり敵に回すつもりは無いわよ。ただ、いざと言う時の為に、少し懐柔──って言えば言葉が悪いけど、彼女と話を通しておきたいと思ったの。
士郎の事は置いておいても、封印指定の執行者をこちらに抱き込んでおくのは役に立つ筈よ。こっちにも、聖杯とか士郎の魔術のこととか、色々魔術協会に知れるとヤバいネタが多いしね」
凛の言葉に、はっと我に返った桜は、照れたように肩を竦めてはにかんだ笑顔を浮かべる。
「あ、そ、そうですよね。わたし、ちょっと考えが暴走しちゃいました」
「まあ、実行に移さなかったからいいけど、アンタも大概、常識ってものが吹っ飛んでるわよね」
「ええ、それはもう。姉さんの妹ですから」
「あははははははははははは」
「うふふふふふふふふふふふ」
その場に他の者が居たならば、恐怖に凍りついてしまうような絶対零度の笑顔でがっちりと握手を交わしつつ、ここに衛宮家最
凶強姉妹同盟が誕生したのであった。
──────目標。
バゼット・フラガ・マクレミッツを
撃墜せよ。
□
最後に湯を使った少女が、当てがわれた客室に戻っていた自分に『後でお話があるので、良かったらわたしの部屋まで来て下さいね』と入り口から声を掛けてきたのは、十分ほど前の事になる。
何の用だろうと一瞬戸惑ったものの、にこにことこちらの警戒心を解くような柔らかい笑みを浮かべている桜を見ると、無下に断る気にはなれなかった。また万が一、襲われるような羽目に至ったところで、彼女相手ならば片手一本でも組み伏せられるだろう。そう思い、簡単に身支度を整えてから、間桐桜の部屋の扉を叩く。
「どうぞー」
「……失礼します」
中に入ると、そこには部屋の主である間桐桜の他に、もう一人の姿があった。──遠坂凛。この地一帯を管理する有能な魔術師であり、また聞いた話によれば、間桐桜の実姉でもあるらしい。妹よりは警戒しなければならない相手ではあるのだが、彼女もまた笑顔でバゼットを出迎えてくれる。促しに従って二人の正面に腰を下ろすと、凛が親しげに話しかけてきた。
「ご足労願って、悪いわね」
「いえ、そのようなことは。それで、話とは一体?」
単刀直入に切り出したバゼットに、黒髪の少女が頷きを返す。
「ああ、そのことね。
今回、衛宮くんの家に居候を許した件に関してなんだけど」
──やはりその事か。無意識に緊張すると、そう身構えないで、と彼女は柔らかく微笑んだ。
「安心して、一度了承したものを翻すようなことはしないわ。住居が見つかるまでの一週間ではあるけれど、わたしたちは貴女を歓迎します。
ただ、あくまで形式的な事だけれど、同居を始めるに当たって、貴女の身辺を少しチェックさせて欲しいの」
「それは構いませんが、私の身分に関わる事ならば、既に貴女もご存じの筈でしょう。
今の私と魔術協会は直接関係がありませんが、それに関しては、現在のところ私の言葉しか証明する手だてはありません。どうしてもと言うならば、魔術協会に問い合わせて証明して貰うことは可能ですが、確実に一週間は過ぎてしまうかと」
「ああ、そういう意味じゃないのよ。言葉が足りなかったわね、ごめんなさい」
軽く頭を下げてから、凛は言葉を続けた。
「お願いしたいのは、もっと即物的な意味での調査なの。そうね、判りやすく言えば『身体検査』ってことよ」
「は?」
身体検査。即ちボディチェック。封印指定を狩るという裏方の仕事が主だったバゼットには、あまりそうした経験は無いのだが、例えば職務で要人の家に足を踏み入れる際など、凶器は勿論、必要以上の攻性魔術の仕掛け等が隠されていないかなどを調べる為に、徹底した身体の検査が行われていることは、彼女も知識として知っている。遠坂凛がバゼットに要求していることは、その種の行為だと言うことだろう。
そう考えると、凛の提案も納得が行く。なるほど、と一人首肯すると、バゼットはきちんと居住まいを正して座り直すと、答えを待つ二人を真っ直ぐに見た。
「分かりました。貴女たちや士郎君に害を成すつもりはありませんが、私がそう言っただけでは説得力が無いのも確かだ。
いいでしょう。私の身を調べたいと言うのでしたら、喜んで協力させて貰いましょう」
「え──?」
凛と桜が驚いたように目を見開いて、顔を見合わせている。そんなに意外なことを言っただろうか。やがておずおずと言ったように、それまで黙っていた桜の方がバゼットに問い掛けてくる。
「そ、そんなにあっさり頷いちゃっていいんですか? だって、姉さんですよ?」
「どういう意味よ、桜。この手のことは、アンタの方がヤバいに決まってるじゃないのっ」
「大丈夫ですっ。今日は蟲も使いませんし」
「蟲──?」
不審に思ったバゼットが聞き返すと、慌てて桜はぶんぶんと首を振る。
「な、なんでもありません。気にしないで下さいっ」
「まあ、それは置いておくとしても、本当にそう簡単に受け入れちゃっていいの? こちらから申し出ておいて難だけど、二対一で無防備な体を調べられるなんて、あまり愉快な事じゃないと思うんだけど」
「構いません。先程も言った通り、私の方に貴女たちへの害意はありませんが──万が一、貴女たち二人を同時に相手にしなければならなくなった所で、私にとっては特に問題はありませんから」
バゼットの言葉にむう、と腕を組んで眉を寄せる姉と、おろおろと動揺する妹。眼前の二人のうち、凛は優れた魔術師であり、また未だ十分な修練を経ていないとは言え、桜の持つ潜在的魔力は、姉のそれすら凌ぐであろう片鱗を見せている。
だが、それでも今の彼女たちは、まるでバゼットの敵ではない。そして二人とも、バゼットと自分たちの実力差を認識出来る程度には強いのだ。だからこそ、告げられたバゼットの言葉に込められた意味を、間違いなく理解出来たのだろう。
──貴女たちは、私の敵ではない──と。
強張りかけた空気をほぐすように、バゼットは儀礼的な笑みを浮かべた。どうにも、桜のように柔らかく微笑むことは、不器用な彼女にとっては難しい。この少女のまとう春のような温かい雰囲気を、僅かに羨ましく感じる。
「それに、そのような事は無いと思っていますから。
私を自室に招くのに、貴女たちは自分のサーヴァントであるアーチャーもライダーも連れていない。それだけ、私に対する警戒を解いてくれたという事でしょう?」
「まあ、そう言うことね。
どっちかって言うと、アーチャーなんて同席させてた日には、みっちり説教食らってこっちの計画がぶっ潰されそうだからなんだけどね。セイバーもその点、融通が利かなそうだし」
「そうですねー。ライダーなら喜んで加わってくれそうなんですけど」
何を想像したものやら、実に嫌そうに顔を顰める凛とは対照的に、桜はどこか残念そうな面持ちだ。それを見て、自分のサーヴァントならば、今の状況を何と評するだろう、と戯れにバゼットは考えてみる。なんとなく、アヴェンジャーもランサーも双方妙に面白がりそうな気はする。
物凄いしかめ面で延々説教を食らわすアーチャー&セイバーと、嬉々として身体検査の輪に入ってくるライダー、それを外野で無責任にきゃっきゃっと茶化すランサー&アヴェンジャー。混乱すること極まりない。護身云々は別にして、サーヴァント連中をこの場に呼ばなかったのは正解だろう。
「─────。」
三人とも変な図を思い浮かべていたのだろうか。場に満ちた微妙な沈黙を破るように、凛がくるりとバゼットを振り向いて口を開いた。
「話がまとまったところで、ちゃっちゃと始めましょうか。
──それじゃ悪いけど、バゼット。服、全部脱いでもらえるかしら?」
□
……しゅるり。
ネクタイを緩め、近くにあった椅子の背に掛ける。葡萄酒で染め上げたような色のスーツから袖を抜き、次いで下も脱ぎ落とした。
『────ごくり』
「う……」
舐めるような視線が、胸元の辺りを中心にまとわりついてくるのを感じる。暗器を隠し持つのであれば、乳房の谷間というのは、女性特有の最適な部位のひとつなので、凛たちが警戒するのも分からないではない。そう思って、バゼットは殊更見せつけるように、二人の目の前で、シャツのボタンをひとつひとつ外していく。
(これで、私に含む所が無いと分かって貰えればいいのですが──)
「うわ、なんか思い切り見せつけられてる気がします。なんだか自信満々ですね、バゼットさん」
「だから言ったじゃない。ほら、ちゃんと見てなさい、桜」
何やらぼそぼそと小さい声でささやき合う姉妹の表情は酷く険しく、言葉にも不穏な気配が満ちている。どうやら逆効果だったようだ。或いは、すべてをさらけ出すまでは信頼して貰えないという事かも知れない。魔術師として、その慎重な姿勢は評価に値するが、同居人としては些か気詰まりなのも確かだ。何とか、彼女たちの不要な警戒を解く事が出来れば良いのだが──
「……ふう」
シャツを脱ぐと、身を守るものは下着だけとなる。ためらいなくそれに手をかけて、するすると脱ぎ捨てると、二人の唇からほう、と言う声にならないため息が漏れた。
「これで良いですか?」
一糸まとわぬ姿で、こうこうと明るい部屋の真ん中に立つバゼットの姿にはまったく色気というものが無い。どちらかと言えば、彼女の裸身を目にするものが最初に覚えるのは、圧倒的な迫力だろう。その感覚は、研ぎ澄まされた美しい日本刀を手に取った時に感じるそれに近い。
──だが、ちょっと待って欲しい。そう決めつけるのは早計ではないだろうか。そういえば、自らの黒化や民族に固執する右翼系の若者が世界的に増えているという事実も、多少気になるところだが、バゼットに対するその第一印象が正しいかどうかについては関係各所の反発が予想され、議論を呼びそうだ。我々にも冷静な対応が求められるだろう。
「……あの、リン、サクラさん。そう眺めているだけでは、チェックにならないと思うのですが」
自分の裸身を隅々まで剥くように見つめる熱い視線にほだされて、バゼットはほんのりと頬を染め、乳房を腕で抱きながら落ちつきなく瞳をさまよわせる。
そうすると、美しいが無機質な彫像のようだったバゼットのイメージが崩れ、その隙間から素の彼女が顔を覗かせるのだ。
長年の厳しい自己鍛練によって磨き抜かれた四肢はすらりと長く、まったく無駄な脂肪がついていない。強力無比な破壊力を生み出すその腕や、きつく引き締まった太股は、しかし良く目を凝らしてみれば、やはり同時に、隠しようの無い女性的な柔らかさを持っている。しなやかさと頼り無さが絶妙なバランスで噛み合ったバゼットの裸体は、同性である二人を以てしても、官能を揺さぶられずにはいられない艶かしさだった。
「う……こ、これは……さっきはマジマジと見てる余裕が無かったから、一瞬だけだったけど……予想以上に凄いわね」
「同感です、姉さん。やっぱりここでわたしが一思いに食むぎゅ」
「ちょ、待、ここでアンタがそれを出したらわたしまで巻き添え食らうでしょ!」
何やらゆらりと黒いものを立ちのぼらせようとした桜を、慌てて凛が背後から押さえつける。なんとも仲睦まじい姉妹だ。自分にも姉か妹がいたら、あんな風に無邪気にじゃれ合う事が出来たのだろうか。違う何処が睦まじく見えるのよわたしは命を張って妹の暴走を止めてるのよー、という凛の声無き必死の叫びは、声が無いだけに残念ながらバゼットの耳には届かなかった。
「で、私の体を調べるのではないのですか?」
「あ……え、ええ、そうだったわね。じゃあ、立ったままじゃバゼットも疲れるでしょうし、ベッドの上に座ってくれるかしら?」
「はい、では」
ぷりん、とこれまた理想的に引き締まった尻を無意識に見せつけながら、バゼットは整えられた寝台の上に上がり込み、足を投げ出すようにしてシーツに腰を下ろした。寝所なぞ、身を置く場所だけがあれば良く、別段横になる必要すら感じないバゼットではあるのだが、綺麗に手入れされたベッドというものは、やはり無条件に気持ちが良いものだ。うっとりと柔らかな布の感触を楽しんでいると、バゼットと同じように、凛と桜の二人もごそごそと寝台に這い上がってくる。
二人の目は、さらけ出されたバゼットの乳房に向けられている。桜は純粋に驚いているようであり──何故凛の方は、この世の終わりが訪れでもしたような絶望的な顔をしているのだろう?
すう、と伸びてきた凛の掌が、バゼットの乳房をゆっくりと撫でていく。触れるか触れないかの位置で蠢かされる感覚に、ぞわりと背筋が総毛立った。
「ちょっと桜、見てみなさい。これをどう思う?」
「すごく……大きいです」
抜けるように白いバゼットの素肌は、驚くほどきめ細かい。その上質の絹布で包み込まれた脂肪が、形の良い鎖骨から、たっぷりと、惜しみなく、大量に、これでもかと言うほど、乳房のかたちに沿って盛り上げられているのである。
胸筋が十分に発達している所為だろう。たわわに実った膨らみは、しかし決して重力に負ける事無く、つんと上向きに張り出している。それだけならば、迫力が勝って奥ゆかしさに欠けた米国製AV的乳(偏見)と言えないことも無いのだろうが、先端を飾る乳輪の淡い可愛らしさがまた反則ものだ。ほんのりと、少女の指先でそっと薄紅を押し込めたような円い輪郭は、豊満なバゼット自身の肉体を裏切って、ひどく儚げな風情を漂わせている。どんなに強く揉みしだいていても、その部分に触れる時だけは、羽根のように軽く優しく口づけたいと思わせずにはいられないほど可憐な乳輪なのである。
「ん……これは、早めにこうしておいて正解だったわ。いくらあの朴念仁とは言え、こんなの見せられたら、絶対ケダモノになっちゃうわよ」
「そうですね……ふふ、バゼットさん、可愛いです。こんなの見せられたら、わたし、女としてちょっと嫉妬しちゃいます」
「な──」
ぴちゃり、と言う慣れない感触が、胸の先端をずり上がっていく。驚いて見下ろすと、凛よりは幾分色素の薄い髪の毛が、さらさらとバゼットの胸元をくすぐっている。
乳房の尖りを、桜の舌で舐め取られたのだ、と気づいたのは、濡れ滴る熱い感触が表層意識に上ってきてからだった。
「あ、さ、サクラさん、何をっ」
「もう……桜ったら、ほんと我慢の利かない子ね。
でも、まあいいわ。わたしも、貴女の気持ちは分からないでもないし」
蠢く桜の舌先に気を取られていると、逆の先端に別種の感覚が走る。桜に与えられたそれが、広面を覆い尽くす緩い刺激ならば、今のは限られた一点だけに刺さる、それ故に鋭い電流のような、違和感──
「あ……っ!」
「ん、思ったより慣れてないのかしら? ちょっときつ過ぎた?」
凛の指先が、バゼットの乳首をひねり上げている。白い指先の間に潰されて、強引に固くさせられた乳首は、むず痒いというより、はっきりと痛い。眉をしかめて不快感をやり過ごしていると、それに気づいた桜が、やんわりと凛の手を退けてくれた。
鬱血した芽に、彼女の舌が絡みつく。じんじんと疼いていた痛覚は、桜の舌先がその上を這っていくにつれて、じれったい快感に書き換えられていく。
「ん……んあ……っ、」
「姉さんは少し耳年増過ぎなんです。机上の知識だけじゃ、実践には役に立たない時もあるんですよ。相手の反応を見て、臨機応変に対応しなきゃダメですっ」
「うるさいわね──と言いたいところだけど、閨房術に関しては、多分アンタが
衛宮家で一番の腕だしね。分かったわ、気をつける」
「っ──ち、ちょっと待って下さい!」
何やら納得し合っている姉妹だが、こちらとしてはたまったものではない。きょとん、と揃ったようにバゼットを見る二人に向かって、快感に掠れそうになる声を張り上げた。
「こ、こんなボディチェックのやり方など聞いた事がありません! 戯れにしても度が過ぎる。一体、何のつもりなんですか──!?」
「あら、魔術協会の代行者さんは、意外と現代日本の一般常識には疎いのね? そんな事じゃ、これから社会に出て働こうっていうのに、回りに巧く溶け込めないわよ」
バゼットの抗議をあっさりと受け流して、くすりと微笑む赤いあくま。
「そ、それはどういう事でしょうか?」
「ふふ、バゼット。これはね、日本文化の真骨頂たる大切な儀式なのよ。嘗て古代ギリシャでは、杯をぶつけ合って酒精に毒が入っていないことを確かめた事を、貴女も知っているでしょう? 現在でも『乾杯』という習慣として、その形式は受け継がれているわね。
でも我が国には、それを遙かに上回る合理的な習わしが、現代に至るも、乾杯のようにその本来の意味を失うことなく脈々と伝えられているのよ」
「な、なんと──」
知らなかった。流石は協会の影響も及ばぬ極東の魔術大国。独自に発展したそのような文化があるとは、まったくもって知識の外だった。
「そう。それはお互いに無防備な姿をさらけ出し、裸身のまま語る場を持つ事で、文字通り腹の底まで相手に自分のすべてを見せ合う行い。
──それが、日本の誇る伝統文化。その名も
『銭湯』よ───!」
どどーん、と背中に富士山を背負って断言する凛の姿をあっけに取られて見上げながら、バゼットは半ば呆然と呟いた。
「戦闘?」
「アクセントが違いますバゼットさん。そのアクセントだとちょっとヤバいです」
「SEN──TO」
「はい、そんな感じです。良くできました」
「そう、銭湯こそは日本独自に発達した、互いの警戒を解き親交を深める素晴らしい交流のかたちなのよ! だからこれは、ちょっとだけ銭湯を応用した儀式であり、まったくもっておかしいところなんか、全然、まったく、これっぽっちも無いのよ、ええバゼットが気にしたりすることなんか何ひとつ無いのよ!?」
「そうだったのですか、分かりました。疑ってしまって申し訳ない」
いや騙されてる。バゼットそれあくまの囁きに騙されてるぞー、と、ここに衛宮士郎がいたら突っ込んでくれただろうが、残念ながら彼はナニをしているものやら今この場には影も形も無い。必然の結果として、知恵の強敵である遠坂凛と、力の強敵である間桐桜のタッグの前に、意外なところで純朴なバゼット・フラガ・マクレミッツは抗うことも出来ずに飲み込まれていくだけなのであった。
「ですが、リン、サクラさん。互いに無防備な姿をさらけ出す、というのであれば、私一人が脱いでいるのはおかしい。貴女たちも服を脱ぎ、私とより親密な交流を行うべきでしょう」
「う──ま、まあ、それもそうね。
いいでしょう。じゃ、わたしたちも準備しましょうか、桜」
「はい。うふふ、楽しみですね、姉さん?」
「……うう……ほっといてちょうだいっ」
和やかなような殺伐としているような会話を交わしながら、バゼットの目前で二人は着衣をほどいてゆく。ベッドの下に降り積もる鮮やかな赤と、ほのかな薄紅、そうして椅子に掛けられたままのワインレッド。同系色でありながら、それぞれの個性の違いをはっきりと主張する色彩が、ひとつに溶けて絡み合っていくようだった。
──そうして。
「こ……これで、いい?」
「姉さん、そうやって隠してちゃ、バゼットさんにだって見てもらえないじゃないですか。ほら、手をどけて下さいっ」
「ち、ちょっと、桜、やめ──きゃ!」
寝台の上には、凡百の男たちが見ればその場で釘付けになってしまうような理想郷が唐突に出現していた。
黒髪の少女──遠坂凛の肢体は、三人のうちで一番幼く、肉付きは勿論、骨格もまだ成長の途上にあると感じさせるものだ。ほっそりとした華奢な手足や、肉の薄い下腹から腰にかけてのラインは、少女の可憐さと共に、中性的な少年が持つ一種の危うい色気を纏っている。
桜によって暴かれた乳房は控えめな大きさで、男の手は勿論、バゼットの掌にすら足りてしまうほどのふくらみでしか無い。だが、それは成熟と共に失われていく一瞬の輝き、思春期の少女だけに許される、清楚と色香の混ざり合った雰囲気を漂わせている。限りなく清らかで、だからこそ汚し壊してしまいたくなるような背徳的な感情をかき立てる裸身だった。
「ふふ、姉さん、胸が小さいからってそんなに気にすること無いんですよ? ほら、バゼットさんだって、あんなに姉さんのこと、熱い目で見てるんだもの……」
そう言う妹の姿は、凛とはまるで対極にあるものだった。その裸身は、惜しみなく咲きほころんだ大輪の華を思わせる、こぼれんばかりの艶かしさに満ちている。
ねっとりと粘りつくような重量感を持った白い肌。桜の体を構成するラインは、三人の誰よりも女性的で、柔らかなフォルムを成している。大きく盛り上がった乳房から、ぎゅっと細く引き絞られた腰、そうして豊かな
肉置きの臀部は、男性が思い描く理想の女体をそのまま具現化したような美しさだ。本能をダイレクトに刺激する桜の裸は、そんな趣味など持ち合わせてはいないバゼットにとってさえ、思わず後ろめたさを覚えてしまうほどの強烈な艶気を放っている。
なんていうか、──その、凄い。
「じゃあ、再開しましょう。あ、バゼットさん、横になって体の力を抜いていて下さいね。ほら姉さん、いつまでも胸を隠してないで、バゼットさんにしてあげて下さい。いくら隠してたって、小さいのはもうバレバレなんですから」
「ほっといてよーっ!」
□
ぴちゃり──
「ん……ん、ああ……!」
今が晩秋であることを忘れてしまいそうなほど、夜半の室内は爛れた熱気に満ちている。湿っぽい甘い匂いが、鼻孔から入り込んで肺の隅々までを溶かしていくようだ。
「あ、ああ……サクラ……そ、こ……」
「はい、分かってます。バゼットさん、こうやって優しく舐められるのが好きなんですよね?」
妖艶に微笑んだ桜が、バゼットの乳首を尖らせた舌先が軽くくすぐった。途端、胸の先端から走った強烈な痺れが、脊髄から脳を伝って快感のパルスを走らせる。
「ん……凄いわね、ほんと。こう大きいと、揉み甲斐があるっていうか……」
反対側の乳房には、凛の指先が取りついている。片方の手では、柔らかな脂肪を包み込むことが出来ず、十本の指をフルに使ってぐにぐにとこね回している。
「こんなに大きいのに、柔らかいし、感度もいいし……ちょっと、悔しいかな」
凛の指の間で、バゼットの乳房は、まるで室温に蕩けかけた芳醇なチーズのように、自在にそのカタチを変える。残された赤い指の跡は、肌の色素が少ない分余計に浮き立って見え、まるで指先で刻んだ
所有印のようだった。
「ああ……ダメ、です──二人がかりで、そんなにされては、私」
「大丈夫ですよ。わたしに任せておいてくれれば、なんの心配も要りませんから。ええ、先輩のことなんかいらないくらい、めろめろのどろどろにしてあげます」
何気に酷いことを言いながら、桜の動きが大胆さを増していく。
「ふふっ、こんなのはどうですか? この前、ライダーと開発してみたんですけど、気持ちいいんですよ」
上半身を起こした桜が、そのたっぷりとした乳房を、バゼットのふくらみに重ねるように押しつけてきた。重い肉が潰れる感触。唾液で濡らされた先端同士が擦れ合い、舌や指で刺激されるのとはまた違った快楽を生む。
充血して勃ち上がった乳首と乳首が、乳房に挟まれてクリクリとこすれている。直接的な快感というより、羞恥を煽るその事実に、脳味噌が悦楽の泥に蝕まれていくようだった。
「あ、ああ……厭、そんなの──恥ずかしい」
「胸の重みで、こすれる感覚が気持ちいいですよね……? 姉さんだと、ボリュームが足りなくてダメなんですけど」
「悪かったわねっ!」
「あん、でもバゼットさんのおっぱい、すごい弾力……ライダーに勝るとも劣らないです」
「アンタ達、このところずっと部屋にこもってると思ったら、昼間からナニやってんのよ……」
凛は呆れ顔で呟いたが、直ぐ気を取り直したようで、乳房を愛撫するのは桜に任せたまま、まだ手つかずだったバゼットの下半身の方へと下りていく。
汗ばんだ太股を、凛の指がぞわぞわと這う。その間も、桜の動きは休まない。乳房で乳房をすり上げ、時に胸の谷間に互い違いにそれぞれの膨らみを挟み込むようにして、その姿勢のままバゼットの唇を求めてくる。
「ん……ん、ふ、……ふぁぁ……」
されるが儘に、つい口づけを受け止めてしまう。口移しで毒や厄介な薬を飲まされることもあるのだから、唇を許したことなど、ただでさえ多くない性交経験よりも遙かに少ないのだが──
「あ……っ! ん、んぁぁ……!」
桜の唇がバゼットに与えるものは、毒でも薬でも無い。いっそ、そんなものであったらどれほど楽だったろうと思える程、バゼットにとっては未知の感覚である、眩暈のような『快楽』そのものだった。
「ふぁ……あ、ああ……サクラ、さ──ん、」
「バゼットさん、可愛いです……ん、んむ、んちゅ……」
差し込まれた舌を伝って流れてくる桜の唾液。そのまま口内に溜め込むには量が多過ぎて、やむなくこくりと飲み込むと、桜が嬉しそうに喉で笑う。バゼットの口中をかき乱す桜の舌の動きは、決して強引ではないのに、彼女の神経が集中している箇所を知り抜いているかのように、浚われるたびに甘い痙攣が押し寄せる。嘗て仕事として肌を重ねた男たちに、膣口をそうされた時よりもまだ濃厚な快感が、唇だけでもたらされる。それはバゼットにとって、到底信じがたい初めての経験だった。
「はぁ……わ、私──こ、こんなの……知ら、ない、ぃ……」
二人分の乳房で肺が圧迫される。苦しくなって、かは、とキスの合間に息を吐き出すと、それを察したように桜が唇を退けてくれた。酸素を取り込もうと、大きく深呼吸をしたところで、
「あ……っ!?」
そのまま、呼吸がぶつりと断ち切られる。
「あ──あ、う……り、リン──」
「ん、こっちの方はどうなのかなーって思って。すごいわバゼット、もうトロトロになってる」
──凛の指が、ずっぽりと無遠慮に内腿に入り込んでいた。先程、バゼットの呼気を奪った感触は、彼女の指先が亀裂を撫で上げた時のものだろう。
「ああ、い、いや……いや、いや……」
「そうは言われてもね。ほら、女性だったらココに怪しいものを隠すのは定番じゃない? だから、ちゃんと調べさせて貰わないとね。それとも、なんか見られちゃまずいものでもあるのかしらー?」
「姉さん。なんかセクハラちっくです、それ」
そう言いながら、桜もぬるりとした動きで、バゼットの下半身を覗き込んできた。
「バゼットさん、足を広げて下さいね」
「あ……」
凛と桜の手が、バゼットの太股に絡みつき、完全に力の抜けた彼女の両足を、子供が放尿する時のような恰好に開かせる。常のバゼットならば、二人の膂力など、僅かにこちらがその気になるだけで退けられるものだったが、今の彼女に抵抗するだけの気力は残されてはいない。
そして、隠すものの無いバゼットの股間が、二人の前にあらわにさせられた。
「うわあ……思ってたより、ずっと綺麗です。バゼットさん、経験少ないんですね」
桜の言う通り、バゼットの陰裂は美しかった。ほころびた肉の花弁の色も薄く、成熟した肉体に比べ、驚くほど秘めやかな形をしている。だがまとわりつく蜜は濃度が高く、ねちゃねちゃと粘っこい音を立てており、バゼットがどれだけこの行為に喜びと興奮を覚えているかを如実に示していた。
「んん……襞の中には、何も隠してないようね。じゃ、こっちはどうかしら?」
「ああ──っ!」
くちり、と狭い入り口をかき分けて、凛の指が胎内へとねじ込まれてくる。
「熱い、わね……わたしの指、火傷しちゃいそう」
「どうですか、姉さん?」
「うん、すごく狭い。わたしと同じくらい、かも……これ、」
そんな恥ずかしい会話を交わしつつ、姉妹は顔を寄せて、思い思いにバゼットの秘部を愛撫する。
「ん……ん、んちゅ……」
「……んむ……ん、ん……」
バゼットのクリトリスを挟むようにして、凛と桜の舌が絡み合う。受け身であるのが男性ならば、いわゆるWフェラという行為になるのだろうが、バゼットの陰核は到底その大きさには足りず、どちらかと言えば、姉妹のディープキスに彼女のクリトリスが取り込まれていると言った恰好だ。
混ざり、粘り、絡み、擦られ──二人の舌と唇が蠢くたびに、唾液の泥濘に捕らえられた肉の芽に快感が走る。
だんだん、何も考えられなくなっていく。たったひとつの言葉が、こだまのように脳内を駆けめぐっている。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい──きもち、いい───
「あ、ああ、あ───あ、リン、サ──くら、さ、私、も──う、」
「いいですよ、バゼットさん。いっぱい、イッちゃって下さいね?」
ぢゅ、と強く吸い上げられた瞬間、今まで味わったことも無い絶頂感が、バゼットの全身を揺さぶった。壊れたゼンマイ人形のように二度、三度と身を跳ねさせると、そんな彼女を愛おしむように、二人の腕がバゼットの体に絡みついてくる。
「落ちちゃダメよ、バゼット。まだまだ、これからなんだから」
「そうですよ、バゼットさん。頑張ってくださいね?」
快楽の涙に曇ってゆく瞳の中で、そう言って笑う姉妹の顔が、なんだかやけに楽しげに見えた────。
□
深夜。
桜の寝台の上には、大大小各2個計6個のおっぱいが死屍累々と横たわっていた。あれから何度絡み合ったのか、正確なところは思い出せないが、部屋に充満した甘ったるい体臭と体に残るけだるさが、情交の激しさを物語っている。
シーツの真ん中に潰れているのはバゼット・フラガ・マクレミッツ。凛と桜に攻められるのがよほど気持ち良かったのだろう。今は完全に意識を失い、すやすやと平和に寝入っている。
その彼女を挟むようにして、企みの成功した姉妹も、心地良い疲労に身を委ねていた。
「……はあ……あ、んん……」
「ふう……ふふ、これで、バゼットさんは先輩を誘惑することなんか考えなくなった筈です。巧くいきましたね、姉さん」
「そうね……でも、アンタも凄かったわね。あれだけバゼットを楽しそうにいじめてたんですもの。アンタも、士郎のことなんかもういらないんじゃない?」
「あら、姉さんこそ。『わたし、そっちの気は無かったはずなんだけどな』なんて、遠慮深いこと言っちゃってたわりには積極的でしたよね。これからは百合専門キャラとして、先輩にちょっかいかけるのはやめませんか?」
「あははははははははははは」
「うふふふふふふふふふふふ」
バトルロイヤルで強敵を倒した後は、頂上同士の一騎討ちとなる。先程まで濃密な空気たゆたう桃源郷だった寝台の上は、今やまさに一触即発のリング。ここに、史上もっとも恥ずかしい全裸での
姉妹喧嘩が、そのゴングを打ち鳴らそうとした世紀の瞬間──
──がちゃ。
唐突に、ドアが開いた。
お互いに戦闘体制に突入しかかっていた凛と桜は、一糸まとわぬ素っ裸のまま、揃ってくるりと扉の方を振り返る。
そこに立っていた人物は、
「カ、カレンさん!?」
「ちょっと、何のつもりよ。ノックもせずに失礼じゃないの?」
「あら、随分な言いぐさね凛。こんな真夜中に、あまりに騒がしいものだから見に来ただけよ。それに、私を失礼と言うなら、そんな恰好で客人を迎える貴女たちはもっと失礼ではなくて?」
「──う、あ」
慌ててシーツを引っ被る二人を前に、カレンはふっと笑ってみせる。
「まるで盛りのついた猫ですね。浅ましい」
「うるさいわね。で、用が済んだのならとっとと戻ってくれる? まったく、アンタの居候なんてわたしたちは認めてないっていうのに、堂々と上がり込んでくれちゃって」
「貴女は認めていなくても、彼には認めていただきましたから。
──ええ。ちゃんと、
日本式の文化に則って、
互いに裸になり親密に打ち解け合ってきたところです」
「な」
「な」
「……すぴー」
─────悪魔(真)、降臨。
「聖骸布で丁重にその身をくるみ、あまりの快楽に悶え泣き叫ぶ口も、辺りの迷惑にならないよう気を使いそっと聖骸布で押さえつつ、彼のペニスの根元を優しく締めつけ、直ぐに達したりしないよう丁寧な愛撫をほどこしながら私の申し出を余すところなく小一時間ほどとくとくと訴えましたところ、『分かった。言うことを聞くから殺さナいでクレ』と、実に快い返事を頂きまして」
「違う! それ絶対快くない! ってか脅迫──っ!!」
「そうそう、お返事を頂いて、拘束していたペニスを解放して差し上げた瞬間、彼はあっさりと達してしまいました。まったく、相変わらず我慢の利かない早漏なのね。あの駄犬は」
「あ、あ、相変わらずってどういうことですか! カレンさん、先輩と一体どういう関係なんですか!? そんな羨まし、じゃなかった、ひどいことを、わたしより先にするなんて絶対許せません──っ!!」
「ええ、それはもう。彼は私を乱暴に組み敷き、自分の思うが儘に貪りつくし、強引に挿入を繰り返した挙げ句、私の体を精液でべとべとに汚されましたが、それがなにか」
「うふふ、桜、もう止めないわ。存分にあの朴念仁を食い尽くしてやりなさい」
「はい姉さん。わたし、もう手加減しません。お仕置きです、先輩」
「すぴー……」
「……俺、いつまでこうしてればいいんだろ」
聖骸布でぐるぐる巻きにされたまま、逸物だけを丸出しにして畳の上に放置された衛宮士郎は、ぽつりと空しく呟いた。
その虚ろな平穏が、あと数分で、迫り来る巨大な闇と共に終わりを告げることを、彼はまだ知らない────
END
■ 後書き
個人的には貧乳も巨乳も等しく価値のあるものだという固い信念を抱いております。
_ ∩
( ゜∀゜)彡 おっぱい!おっぱい!
⊂彡