■ Like a Prayer ■




Newtral=Gray






―― 一体全体何でこうなったんだろう――

 俺は胡乱な頭で考えていた。

「……ぁ」

 最初のきっかけは何だったろう。偶然に橋の袂の公園で散歩していた時だろうか。
 いきなり手足や腰に巻き付く赤い布。それはまるで迷い込んだ獲物に絡みつく吸血植物の触手のように、的確に自分の動きを封じていた。
 その後のやり取りでなんとか外してもらえたが、何やらそういう風にしろと言ったのは自分である、と告げられた時は正直頭を抱えた。
 それから何度やり取りを繰り返しただろうか。すれ違うお互いの主張が徐々に融合していく。その課程は一概に面白い物ではなかったが、少なくともお互いを知るという最低限の目的は達成したようだ。
 何故かサインペン――しかも油性――を握りしめて襲いかかってくるのには閉口したものの、彼女の言動に新鮮さを欠くことはなかった。もっともそのほとんどが自分の身体に著しい損害を与えはしたが。
 今まで接したことのないタイプの女性。弱いくせに強く、強いが故に脆い。その強烈なアンビバレンツが自分の中の興味を擽ったというのもあったが、憐憫の念も間違いなくあった。そして――

――その生き様は少し……そう、少し自分と重なるような気がして。 

 だから。
 自分はこの女性に結局は惹かれていたのではないだろうか。そう、思う。





「ふっ」
 目の前の白い果実に手を伸ばす。仄かに赤みがかり、まるでもぎ取られるのを待ち侘びているかのようにわななくそれは、手の動きに合わせて自在に形を変える。その薄鴇色の先端は、こちらの動きを的確に反映してか、切なく屹立していた。
 漏れる吐息は甘く切なく、触感以上に自分の嗜虐心を擽る。
 白いシーツの上に広がる、白金(プラチナ)色の髪。わずかなランプの光を受けて、夕日を反射する水面のようにキラキラと輝く――まさにそれは水銀の海。
 その毒は触れた者を確実に狂わせ、本当は羽毛のように軽いはずなのに、四肢にまとわりつくと途端に重みを持ったかのようにこちらの動きを制限する。
 その海の中に浮かぶ裸体――透き通るように白く、溶けるように熱いそれを余すところなく。掌で、指で、唇で、舌で堪能する。全ての反応を引き出すために、あらゆる既知の技巧を駆使していく。
 それは彼女にとっては児戯にも等しいものかも知れない。
 それでも俺はそうすることで、何かに報いる事が出来るような気がして。





「……く」

 濡れそぼった金色の瞳。くすんだそれは仄かなランプの光を反射して、いつもより鮮やかに見えた。時に驚きを伴って見開かれ、時に羞恥を伴って閉ざされる。その眦の動きが更に自分の嗜虐心を煽る。

「!!」

 そして時折こちらに注がれる熱い眼差し。それが意味するのは……殺意か、それとも恋慕か。正反対の意味を持ちながら、実は紙一重。その隣り合わせの両者の根本にあるものは一体何だっただろう。それを自覚する事は結局最後まで出来なかった……享受する快楽があまりにも強烈すぎて。

「あっ!」

 視界が霞む、ノイズが走る。
 魂を根底から揺さぶられる何かに、自分の中にある何かが鎌首を持ち上げる。それまでの愛撫とはうってかわって、その瑞々しい肉を噛みちぎらんが如く歯を立て、しとどに濡れた蜜壺を己の無骨な指で容赦なくかき回していく。
 こうして荒々しく彼女を翻弄しているのは……本当に自分なのだろうか、それとも……


 全くの別人格なのだろうか。


 そんな考えもこの目眩く恍惚の中では朧に霞む……しかしその最中で確実に、その何かが俺と、一つに溶け込んでいくように感じて……。





 過ぎゆく時間と共に高まる熱、噴き出す汗。お互いの身体の芯から溢れるモノが心を揺さぶり、最後の堤防が決壊する、心の箍が外れるその瞬間。まさにその一歩手前で――彼女の唇から言葉が紡がれた。

「いら……い……ア………………」

 薄く、天然の紅をひいた形の良い唇から、漏れる声。
 まるで祈りのように静かな、それでいて熱のこもった声が、熱い吐息を織り交ぜてこちらの耳に、胸に、魂に届く。

「いらっしゃい……ア■■■ユ……」







 その言葉にどれくらいの感情が込められているだろう……歓喜、期待、願望、懇願、恋慕、それとも……。 
 そして同じく赤子を求める母のように、罪人をかき抱こうとする女神のように、こちらに伸ばされた両手――拡げられたそれは誰に向けられたものだろう。
 それでも今は、この時は。自分に向けられたものであると……信じ込む。







 そして、俺は、堕ちていく。
 その娼婦のような聖女の、麗しき二律背反を具現化した肢体に――。




【Repeat Again――】





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